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『菊地孝平』0.15秒のロジック【ボートレーサーコラム】

0.01秒という一瞬を争う、驚異的なスタートタイミング
ボートレースは、他のスポーツ競技と異なる「フライングスタート方式」を採用している。これは、サインやピストル音に合わせて一斉に走り出すのでなく、離れた位置から走り出し、決められた時間内にスタートラインを通過するスタイルだ。レースの勝敗の行方は、スタートラインを切る前からすでに始まっている。

スタートライン前の大時計がスタートの時間を示す。針が1周する12秒の間、各ボートは直線を走りながらスピードを上げ、針が0を指す瞬間を狙ってスタートラインを通過する。スタートに許されている猶予はたった1秒。好スタートにはリスクが伴い、高い制御技術が求められる。ボートに十分スピードが乗り、かつ限りなく0秒に近いタイミングでスタートラインを越えるのが理想だ。トップレーサーのスタートタイミングは、およそ「0.15秒」。経験と勘に裏打ちされた精度で、一瞬の間にスタートラインを通過する。しかし、針が0を指す前にスタートラインを通過すると「フライング」、1秒以上遅れて通過すると「出遅れ」となり、両者ともに厳しい罰則が与えられる。

菊地孝平選手
1998年にデビューした菊地孝平選手は、スタート巧者として知られるレーサーのひとり。2018年の平均スタートタイミングは「0.11秒」。その他のトップレーサーと比較しても、これは驚異的な数値だ。そのテクニックで2014年にはボートレースの最高グレード「SG」クラスのレース「ボートレースオールスター」、および「グランドチャンピオン」を制覇し、年間賞金王の座に輝いた。なぜここまで抜群のスタートを切ることができるのか。

「まず前提として、スタートは速さよりもフライングを切らないことが大事です。しかし、僕はスタートで後手に回って負けるのは許せない。ですから、リスクとリターンの管理をしっかりしつつ、スタートを全速で仕掛けるための「システム」を頭の中で用意してます。スタートまでの全ての道筋と、その過程で起こりうるトラブルや自分のミスを想定し、それをカバーするための方法を常に何パターンも想定しておく。結果を出さなければいけないレースなら、多少のリスクを犯してでも勝負をかけにいきます。僕にとってのスタートタイミングは感覚ではなく、独自のシステムに裏付けられた結果にすぎないのです」

フライングへの恐怖
全速力でスタートラインを目指す一方、選手たちの頭には常にフライングへの恐怖が付きまとう。フライングをした場合そのレースは欠場扱いになり、30日間の出場停止処分が課せられる。しかも、レースによっては一定期間グレードの高い競走に出場できなくなるなど、重大なリスクがあるのだ。

菊地選手は、過去にフライングで苦汁を舐めた経験がある。年間賞金王に輝いた2014年の翌年、SG「第42回ボートレースオールスター」で0.01秒のフライングをしてしまい、オールスター連覇の夢が閉ざされてしまった。

菊地孝平選手
「やはり、ボートレースオールスターでのスタートの失敗は記憶に残っています。『自分の勘による誤差』にも対処できるよう、システムをアップデートしたのはこれがきっかけですね。レース中は、天候や他の選手の動きなど、あらかじめ想定できない不確定要素があります。自分の不調や犯すかもしれないミスも、そういった不確定要素と同じく『一つのリスク』としてシステムに織り込まない限り、最高のスタートは切れません」

水上の天才研究者
自身の感覚や経験を徹底的にシステムに落とし込み、トライアンドエラーを繰り返しながらボートレースに臨む菊地選手は、まるで自身の理論を着実にアップデートしていく研究者のようだ。彼にとってレース前に行うスタート練習は、自身が構築したシステムにエラーがないかを確認するデバッグ作業なのかもしれない。

菊地孝平選手
「邪念が出るとシステムそのものが狂ってしまいます。相手を出し抜くのではなく、いつも自分のベストのスタートを切れるようにどうすればいいか。僕が0.06~0.09秒でスタートしたときは、完全に自分の理想のシステムに合致した証拠です。とはいえ、いくら上手くタッチスタートを切れてもまくられるときはまくられてしまう。そのため技術の訓練や事前準備は欠かせません。僕が戦っているのは周りのレーサーではなく、常に自分自身ですから」

菊地孝平(きくちこうへい 1978年8月16日生)
登録番号3960 身長165cm 82期 静岡支部所属
研ぎ澄ませた感覚をもつボートレーサーたちの中においても、驚異的な精度を誇る屈指のスタート巧者。

ボートレース芸人・永島知洋に聞いた菊地選手

ボートレース芸人・永島知洋菊地選手はレーサーの中でもかなりの頭脳派。レース場の風の向きや波の高さまで、すべての要素を計算して組み立ててレースに臨んでいる。これまでの安定した実績は、研究を重ねたロジックで臨機応変に対応してきた結果だ。

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