増量+重量調整のハンデに立ち向かう
ボートレースは男性選手と女性選手が同じレースに出走して競うスポーツだ。そのため男性選手は51kg、女性は47kgの「最低体重制限」が設定されている。男性選手のほとんどは51kgに近づけるために徹底的な減量を行う一方、身長の低い小柄な女性選手ほど、食事やトレーニングで体重を増やす“増量”の苦しみを味わっている。レース前の体重測定で数字が最低体重制限を割り込んでしまった場合、レーサーは重量調整用の重りを付けた着衣、通称“オレンジベスト”を身に着けなければいけない。重りの付いたベストがボートの操縦に与える負の影響は非常に大きく、わずか500gの重量ですら着用を嫌がる選手もいる。
樋口由加里選手
身長145cm。樋口由加里選手は、女性レーサーの中でもかなり小柄な選手だ。レーサーになる前の体重は40kgあるかないかで、現在も増量を意識していない時期の体重は43kg程度だという。最低体重47kgまで、4kgも増量するのは現実的ではない。そこで、樋口選手はオレンジベストを着ることを前提に、コンディションが許す範囲の増量でレースに臨んでいる。現在の指標は体重45kg、重量調整が2kgだ。「以前に食事だけで47kgまで増量させたのですが、ただ単に太っただけで、レースで身体が思うように動かなくなってしまったんです。試行錯誤した結果、重りは2kgまでは平気だという結論に至りました。さらにベストが重くなると操縦に影響が出てしまうので、意地でも体重は45kgを守っています。今までは食事だけで体重を調整していましたが、最近は筋力トレーニングを加えるようにしました。ある程度の筋肉を付けることで、体重が安定するようになりましたね」
先輩レーサーのテクニック、ノウハウを活かせない体格
ボートレースでは、体重が軽いほどボートの接水面積が少なくなり、水の抵抗が減って加速しやすくなる。それだけを考えれば、体重が軽い女性レーサーのほうが良い条件でレースを走れるはずだが、そのアドバンテージには代償がある。もっとも顕著にマイナス面が現れるのは、やはりターンだろう。ボート内の着座位置の関係で前方に重心がくるため、軽量選手はターン時に船体が安定しづらいのだ。そもそも女性レーサーはボートをコントロールする力が男性選手に比べて弱い。小柄な樋口選手にはそのハンデがより一層大きく降りかかる。ボートレースでは全てのレーサーが同じサイズのボートに乗るため、平均的な身長の選手が身につけた一般的なテクニックやノウハウのほとんどは、樋口選手のような小柄な選手には当てはまらないのだ。
樋口由加里選手
「身長が低いことによって『やりにくい』ことはたくさんあります。他の選手と同じ位置に座ったらハンドルに手が届かないし、体重移動ができる範囲も狭い。でも、だからといって『できない』とは言いたくない。モンキーターン【※】も最初は全くできませんでしたが、何度も練習して少しずつ立ち上がれるようになりました。身体的には不利でも、継続によって克服できることは少なくありません」【※】ボートの上で立ち上がり、ターンマーク周囲を鋭く、より早く回る高等テクニック
「自分の乗り方」を見つけ、さらに上を目指す
2008年のデビュー以来10年間、コンスタントに結果を出し続けてきた樋口選手だが、まだまだ身に着けるべき技術がたくさんあるという。これからもトップレーサーと渡り合うため、自らの長所である「軽さ」を活かす走りの研究にも余念がない。樋口由加里選手
「身体が小さい私は、ボートに乗るための方法論が他の選手と違っているんです。同じ土俵で勝つには、まったく新しい『樋口の乗り方』を見つけなければいけない。自分に合った乗り方や私だけのベストなターン技術が見つかれば、トップの選手とも対等に戦えるようになる。それに、本来この体重なら直進のスピードがもっと出るはずなんですよ。身体的なメリットをどう活かすのか。さらに上を目指すために、私がクリアしなければいけない大きな課題です」樋口由加里(ひぐちゆかり 1988年1月19日生)
登録番号4501 身長145cm 102期 岡山支部所属
小柄な選手の多い女子レーサーの中でも特に小さい選手だが、ミニマムな体にフィジカルとメンタルの強さを秘めている
ボートレース芸人・永島知洋樋口選手は、小柄なのにとてもパワフルな走りをする選手。スタートが早く、ターンでもスロットルレバーを握って強気に攻める姿勢に、樋口選手の負けず嫌いな性格が現れている。まだ大きなタイトルを獲得していないものの、その将来性に大いに期待しているファンは少なくないはず。