ボートレース平和島で開催された「SG第35回グランプリ 」。優勝賞金1億円がかかるボート界最大のレース、そんなグランプリに悲願の初出場を果たした“艇界のエンターテイナー”西山貴浩選手。枠番抽選では連日1枠を引くなど驚異の活躍を見せてくれた西山選手のグランプリを東スポ・カメラマンの写真と共に振り返ります。
いや、もともと全国的に名前が売れている選手なのだが、単純に「ボートレース界のお笑い怪獣」ではなく、とんでもない勝負根性&度胸の持ち主として認められたはずだ。
トライアル2ndに突入してからコンマ07・05・06・02。お祭り男の真骨頂は、陸の上だけではなかった
涙の圧勝V――。優勝賞金1億円をかけたボート界最大のレースSG「第35回グランプリ」(ボートレース平和島)は20日、トライアルを勝ち上がった6人により12Rで優勝戦が行われた。レースはインからコンマ01の火を噴く速攻スタートを決めた峰竜太(佐賀=35)が逃げ切り圧勝! 7月の鳴門オーシャンカップ以来となる、通算4回目のSG優勝を2年ぶり2回目のグランプリ制覇で飾った。このV賞金を加算して、今年の獲得賞金は2億5068万2000円として、賞金王の座を勝ち取った。
直前の11R「グランプリシリーズ」覇者の深川真二は「(峰が)やってくれそうな雰囲気がプンプンしている。いや、必ずやってくれると思います!」と大船に乗ったつもりで後輩のレースを見守った。そして、その予感通り、〝激熱〟のスタートでスリットを制した峰は、1Mを華麗なターンで直線に向くと、後続艇を引き離し、一気に独走態勢に持ち込んだ。
「スタート展示(F02)と同じ起こしで行きました。本番は(スタートが)入っているだろうと思って、時計も見ずに…(笑い)。『スタート正常』のランプがついた瞬間、勝ったと思いましたね」
峰にタッチスタートを決められては、他の5艇に出番はなし。それほど完璧なレース内容だったが、レース前はプレッシャーに襲われたと告白する。
「2年前(GP初V)とは違って、今回は期待されていたので、重圧は感じました。それに、インが絶対じゃない平和島の水面、向かい風、前づけで深くなる進入と、負けてもおかしくない条件が揃っていたので…。でも、それを言い訳にしたくなかったんで、勝てて良かった~」
大会前には「グランプリは運の占める割合がほとんど」と語っていたが運だけでは片づけられない強さを見せつけ「周りのプレッシャーが自分を強くする。これからもそれを乗り越えていきます!」と高らかに宣言。
超人となった峰の進撃は来年に続く――。
ボートレース平和島で開催されていたボート界最大のレース、優勝賞金1億円をかけたSG「第35回グランプリ」は20日の最終日12Rで優勝戦が行われた。レースはインからコンマ01のスタートを決めた峰竜太が逃げ切り優勝。7月の鳴門オーシャンカップ以来、通算4回目のSG優勝。グランプリは2年ぶり2回目の制覇を果たした。この賞金を加算して、今年の獲得賞金を2億5068万2000円とし、賞金王の座も勝ち取った。
<平和島ボート:グランプリ>◇SG◇最終日◇20日
◆戦い終えて◆
平本(4着) コースは突っ張るつもりだったけど…。展示タイムも出ていたし感触は一番良かった。来年もグランプリに戻ってこられるように頑張ります。
西山(5着) 気合のスタートは行けた。でも放って正解。45メートルで嫁の顔が浮かびました。足は弱かったがいい経験になった。また強くなりました、ワハハ。
新田(6着) 考えて調整はしたが、回り過ぎ。普段から伸び型にしてないし、ダッシュしても威力がなかった。スタート勘通り。
<平和島ボート:グランプリ>◇SG◇最終日◇20日
最善は尽くした。寺田祥が2Mでさばき、2着に食い込んだ。「いい仕上がりだった。(1Mの選択は)正解だったかな」。一瞬まくり差しも考えたが、外マイ。道中の冷静な対応につなげた。「また来年、頑張ります」。10月に引退した同郷の大先輩今村豊さんが果たせなかったグランプリ制覇、89年福永達夫さん以来の山口勢Vへ再出発を誓った。
<平和島ボート:グランプリ>◇SG◇最終日◇20日
確かな爪痕を残した。6枠の松井繁が進入から沸かせた。4コースを奪ってスタートはコンマ03。1Mは差し、2番手争いに加わった。結果3着でも舟券に絡んだ。「スタートはええの行ったやろ。全速。僕らくらいの年齢でここを走るのは大変やけど頑張れたと思う」。悔しさはありつつ王者ここにありを体現。来年も若手に刺激を与える。
BOAT RACE ビッグレース現場レポート
ガバ差し
11Rシリーズ優勝戦
①池田浩二(愛知)18
②深川真二(佐賀)12
③坂口 周(三重)13
④前本泰和(広島)17
⑤秦 英悟(大阪)14
⑥石渡鉄兵(東京)13
3年前の平和島ダービーに続いて、深川が2コースからズッポリ差し抜けた。最大の勝因はスタートか。逆に言うと、インコース池田の敗因もスタートに収束される。最後の最後にフライング持ちが響いたか。
スリットでのふたりの差は1/3艇身ほどで、そこから出て行ったのは深川の方だった。さすがトップ級の出足。1マークのはるか手前でジカまくりが可能な差になったが、深川はそこでじっと待つ。ここ1年の2コース成績はまくり5勝、差して23勝! 考える余裕のあるポジションで、深川は己の得意とする戦法を選んだ。
まくられたら一巻の終わりという態勢だった池田は、深川に圧迫されながら1マークを先取りした。が、スタートからの“借金”が響いて軽やかに旋回すべきマイシロがない。仕方なしにターンマークに寄り添ったインモンキーはずるり外へと流れ、その瞬間を待ち構えていた深川がトドメの差しハンドルを突き入れた。
大ベテランならではの老獪かつ冷静的確な差し抜け。「平和島のホーム向かい風は2コース差しが決まらない」が定石なのだが、この2コース差しの鬼には何の障壁でもなかった。SGタイトルはどっちも平和島、そしてどっちも2コース差し。あ、今節の初日に「平和島の水神様は吉川姓がお好き?」などというチャラい記事を書いたのだが、平和島での直近3度のSGを振り返ると【深川~吉川元浩・昭男コンビ~深川】という実に渋いダンディたちが牛耳っている。なんのことはない、平和島の水神様は単なる「おっさんずラブ」なのかも知れないな(笑)。
この優勝で、深川は来年3月の福岡クラシックの権利をGETした。福岡は前付け選手にはなかなか険しい環境のレース場というイメージがあるのだが、ピットアウトからレースを活性化してくれる選手が増えるのはありがたい限り。70m起こしも辞さない、男前なアタックを魅せてもらいたい。
ガバドンの涙
12R GP優勝戦 並び順
①峰 竜太(佐賀)01
②西山貴浩(福岡)02
③寺田 祥(山口)04
⑥松井 繁(大阪)03
④新田雄史(三重)04
⑤平本真之(愛知)08
2020年の平和島グランプリは、佐賀のガバイ旋風とともに幕を閉じた。シリーズ戦の深川真二Vに続いて、こちらは峰竜太がインから圧逃V。2年ぶり2度目のGP覇者へと返り咲いた。
新型コロナウイルスの影響で入場人員が制限された平和島スタンド。6年前の当地GPの喧騒とはまるで別物の、誰もが好きな立ち位置で観戦できるほど余裕がある空間。こんなグランプリは、おそらく後にも先にも起こりえないだろう。
夕焼け色に染まる西空にSGファンファーレが鳴り響くと、ほとんどの観客が拍手でそれに応じた。これもまた、GPらしからぬ静かにして厳かな拍手。こうしてレース場に足を踏み入れ、年間で最大最高のレースを現場で観られる喜び。それを噛みしめているような拍手に思えた。
「松井、行けよ、行ってくれよ~~!!」
誰かしらが叫んだ声が響く響く。そして、6号艇の松井はその叫びに呼応するようにエンジンを噴かせた。西島義則を思わせるモンキーターンでの激しい前付け。抵抗したのは峰、西山、寺田の3艇で、新田と平本は潔く身を引いた。1236/45。内4艇はほぼ横一線で進んでいくから、なかなかに迫力のある最終隊形だ。
「やっべ、ヨンゴゴーヨン、あるんじゃね!?」
若者の声も茜色の空にコンコンと響く。私のにわか脳内レースもヨンゴゴーヨンの出し抜け映像を作り出した直後に12秒針が回る。ダッシュ2騎が早々に発進し、スロー4艇はやはり横並びのジャスト100起こし。さほど深くならなかったのは、11Rが終わったあたりから強くなったホーム向かい風のせいだ。が、その風はダッシュ勢の加速度を際立たせるファクターでもある。
自然、私の目は外へ外へと向いたのだが、スリット隊形はわずかながらスロー勢に分があった。それもそのはず、インコース峰のスタートはコンマ01!! さらには西山が02で寺田が04で松井が03、4人ともにキワのキワまで突っ込んでいた。助走の最中にわずかでも風が弱まれば、GP史上最悪の惨事が起きたかも知れない。
だがしかし、コンマ01でも踏みとどまってしまえば絶品のタッチS。峰が1マークを先取りし、西山が差し、寺田が渾身の握りマイを放った。その強ツケマイは相手をよろけさせるほどの迫力に映ったのだが、峰のインモンキーがまた凄い。例によって長身を折り曲げ、高く腰を跳ね上げながら上体を内へ内へと捻る独特のフォームは、いつにも増して美しかった。白いカポックが夕焼け色に染まっていたからか。寺田を応援していた私がほんの一瞬だけ見蕩れている間に、峰は寺田を3艇身ほども置き去りにしていた。
「足は2段階くらいアップして、もう節イチです」
おとといあたりから、峰はこんなラッパを吹き始めたが、この圧勝をもってしても私は節イチパワーと認める気はない。今日も含めて4戦のうち3戦が影をも踏ませぬイン逃げで、昨日は後方でほぼレースをしていない。まるでパワーの比較材料がないまま、峰はグランプリの頂点に立ってしまった。今日の「3艇身の瞬間移送」もパワー云々ではなく、あの美しいフォームのなせる業かも知れないのだ。
ブッチギリの一人旅で3周を走り終えた峰がド派手なガッツポーズを繰り出した瞬間、またスタンドの人々は一斉に拍手をしはじめた。もちろん、ファンファーレの厳かなそれとは違う、祝福の拍手、拍手、拍手。舟券が当たって感謝を込めた拍手、外れても峰の強さに酔いしれた拍手、そしてこの場で勝者をジカに祝福できる喜びの拍手……そんなこんなが入り混じった拍手は、峰竜太という人柄をしっかり反映しているようにも思えた。
レース終了からウイニングランまで10分ほど待たされただろうか。スタンドから何十人かの人たちが立ち去ったが、それ以外の観衆はそのままヒーローの登場を待った。待たせて待たせて、やっと現れた千両役者はわんわん泣いている。何度も何度も両手で涙を拭う、掛け値なしの号泣。それを見て爆笑する若者も中にはいたが、ほとんどのファンは拍手しながら口々に「おめでとー」と叫ぶ。もらい泣きしている女性もいる。その声援に、また峰が涙を拭う。
うん、やっぱこの男は舟券の当たりハズレあたりを超越して、老若男女に愛される本物のアイドルなんだな。
そんなことを思った。この優勝で、峰は今年の主要なレーサー褒賞をほぼ独占することになりそうだ。最優秀選手賞、最多獲得賞金賞、最高勝率賞、最多勝利賞。そして記者大賞も含めた5冠王になることだろう。恐ろしく強いのに、日本中の老若男女に愛される天然キャラ。その両方を、今日も私は目の当たりにしたわけだ。せっせと峰以外の舟券を買いながら。
怪獣ガバドン。
ガバイ旋風からの連想もあって、私は号泣している峰とある怪獣を重ね合わせる。ウルトラマンに登場するガバドン(正確にはガヴァドンだが)は、少年の落書から生まれた愛すべき怪獣だ。ウルトラマンでさえも子どもたちの「ガバドンを殺さないで!」という声に抗えず、年に一度、(たしか)七夕の日に再会できる宇宙の星へと変貌させた。なんだか、今日の水面やスタンドでのあれやこれやがこの愛らしい怪獣とぴったり重なり、もはやボートレース界での特殊な存在=星というかアイドルというか、になってしまったんだな、と実感した次第だ。ん、変な成り行きになったが、なんとなくわかってもらえるだろうか。